スタッフ
監督:川島雄三
製作:坂上静翁
脚本:井出俊郎、寺田信義
撮影:高村倉太郎
音楽:真鍋理一郎
キャスト
蔦枝 / 新珠三千代
義治 / 三橋達也
お徳 / 轟夕起子
落合 / 河津清三郎
伝七 / 植村謙二郎
和男 / 平沼徹
良男 / 松本薫
玉子 / 芦川いずみ
三吉 / 小沢昭一
そば屋店主 / 冬木京三
製作国: 日本 日活作品
配給: 日活
あらすじとコメント
暫く振りの<番外編>の発行。特段、何かあった訳ではなく、単純にサボっていただけ。まあ、こちらは不定期発行なのでご容赦願いたい。
奇才と呼ばれた映画監督、川島雄三。「幕末太陽伝」(1957)が、一番有名だが、個人的には、これが監督のベストだと思っている作品。
東京。蔦枝(新珠三千代)と年下の義治(三橋達也)は、バスで、ふらりと「洲崎」へやって来た。眼の前には、赤線地帯である『洲崎遊郭』へと続く橋がある。
そのまま、ふらふらと橋を渡ろうとする義治を制すると、蔦枝は橋の袂にある一軒の飲み屋へ入った。女将のお徳(轟夕起子)が、ひとりで営む小さな店である。そこでビールを頼むと、蔦枝は自分らは駆け落ちしてきたが、仕事もなく金も底をついたので、何とか職を世話してくれないかと身の上話を始めた。
そこへ、いかにも遊び人で、秋葉原で電気店を営む常連の落合(河津清三郎)がやって来る。蔦枝は、すぐに手馴れた感じで落合に接客を始めた。一杯引っ掛けて、今夜は遊郭で泊まりだと、店を辞した落合を見送ると、そのまま呼び込みまで始める蔦枝。
そんな二人を不憫に思ったお徳は、今晩は店の奥に泊まれと勧めるが・・・
刹那的に生きる若い男女と、それを取巻く人間たちを描く秀作。
製作当時、日本では売春行為は合法であった。ただし、東京では特定の場所において、特殊飲食店いう名目で許可され、警察の地図上に、当該地域を赤い線で囲っていた。そのことから『赤線』と呼ばれた。また、戦後に当該地域以外で「もぐり営業」で売春行為をしていた場所を『青線』と呼んだ。
俗に赤線を「公娼街」、青線を「私娼街」とも呼んでいた。舞台となる「洲崎」は『赤線』である。つまり売春地帯である。
そこへは橋を渡って行く。橋の向こうには、大きなネオン看板があり、『洲崎パラダイス』と書かれていた。
その橋の手前側のたもとに、ポツンと建つ飲み屋が舞台だ。つまり、売春地帯に入る最後の関所のような場所。
男は女を買う前の景気付けで酒を引っ掛け、また、帰る前にも昨晩の戦勝報告を兼ねて立寄る。買春する男たちにはオアシスのような店。方や、若い女性には売春婦になるかどうするかと躊躇う最後の砦。
そこに住み込む一組のカップル。年上の女はどこか開き直っている。しかし、ヒモのような男は、男の沽券を持ち合わせていない。女には砂上の楼閣、男には薄氷の上という場所。
そういう男女をハラハラしながらも、見守る女将。そんな彼女も小さな息子と自分を残し、若い女と一緒に行方知れずになっている亭主がいる。
こういった、どこか人生の敗残者たちが集っている場所。
主役の女は、客あしらいから見て、相当の強者という雰囲気が漂っている。それを恋人に見せつけることによって、このままで良いの、と暗に圧力をかける。それでも、男は優柔不断だ。
そこに絡んでくるのが、遊び人の中年男。いかにも中小企業のスケベ親父という風情で、彼女の心をあっという間に見透かしてしまう。当然、彼女の恋人の存在も知っている。しかし、どちらが男として力が上かを熟知しているので、女を懐柔にかかる。
その中年男を演じる河津清三郎がお見事。実生活でも豪放な遊び人だったらしく、何気ない仕草に垣間見せる、いやらしさと男の色気は堪らない。
主役の新珠三千代もハスッパで、若いのにどこか疲れた風情の中に女の情念を醸しだし、ぞっとする。女将役の轟夕起子も、くたびれて人生から降りているような中年女役を好演している。ただ、三橋達也が頑張っているのだが、どうにも線の細いヒモ男には見えないのが残念。
それでも、当時の風景を描写するカメラは切ないほど美しいし、男尊女卑の時代に、男のほうが弱いという描き方も、成瀬巳喜男とは違う視点で、興味深い。
いつの世も男女の繋がりは同じだと考えさせられる作品。


