スタッフ
監督:千葉泰樹
製作:藤本真澄
脚本:笠原良三、吉田精弥
撮影:西垣六郎
音楽:伊福部昭
キャスト
矢沢りよ / 山田五十鈴
鶴石芳雄 / 三船敏郎
矢沢留吉 / 亀谷雅敬
きく / 村田知英子
きくの夫 / 田中春男
中村玉枝 / 淡路恵子
大西 / 多々良純
隣のお内儀 / 馬野都留子
運転手 田中 / 沢村いき雄
電報配達夫 / 中山豊
製作国: 日本 東宝作品
配給: 東宝
あらすじとコメント
軍人や侍役ばかりのイメージが強い三船敏郎が少し不器用な男を演じた、知られざる名作。
昭和24年。早春の東京、荒川放水路近く。戦後四年が経過していたが、人々の生活はまだまだ貧しく、慎ましやかだった。
シベリアに抑留され、二年も音信が途絶えている亭主の安否を気にかけながら、りよ(山田五十鈴)は、お茶の行商に精をだしていた。
だが、今日は誰にも買ってもらえず消沈していた。そんな時、河川敷にある鉄材置き場の小屋から顔をだした鶴石(三船敏郎)に、声を掛けた。ふと、中を覗くとストーブが暖かそうに点いていた。丁度、昼時だったので、りよは、申し訳ないが、中で食事を取らせて貰えないかと頼んだ。鶴石は、自分ひとりだけだし、と彼女を呼び入れた。
そこでお互いの身の上話になり、彼もシベリア帰りだということを知る。彼は、自分のいない間に妻に去られ、今はここで番人として住んでいると言った。その上、鶴石はお茶を買ってくれ、いつでも昼飯をここで食べなさい、とやさしく言ってくれた。りよは礼を述べ、小屋を後にする。
彼女には五歳になる息子がおり、結婚相談所を営むきく(村田知英子)の二階に間借りしていた。隣は売春婦をしている玉枝(淡路恵子)の部屋。実は、きくは玉枝に客を紹介し、上前までハネるしたたかな女だった。
しかも、身持ちの硬いりよより、玉枝のような女に貸した方が儲かると踏んでいたきくは、彼女に再婚を世話すると持ちだして・・・
戦争を引き摺る市井の人間たちのささやかな感情を描く小品。
上映時間が60分という作品だが、どこか成瀬巳喜男作品に通じる人間の性と悲しさが漂う。それもそのはず、原作は成瀬が「浮雲」(1955)「放浪記」(1962)など数本映画化している林芙美子である。ゆえに、女の弱さと脆さが際立つ設定にして、どこか暗さが常に付きまとう。
戦争に行った男たちは死んだり、行方不明になった者も多く、残されたのは、戦争に行かなかった老人や女性や子供ばかりだったのは事実。しかも現在と違い、女性の社会進出は認められておらず、いかがわしい闇商売に手を染めたり、水商売や売春婦といった虐げられた仕事にしか就けなかった。
そんな中で、「お茶の行商」という地味で儲からない仕事をし、ひとり息子と亭主の帰国を待ち続ける主人公。心の隅では、とうに死んだとあきらめているが、それでも、新しい一歩が踏みだせない。そこで貧乏だが、心やさしい男と知り合う。一方では、友人から煙たがられ、スケベ親父と再婚させられそうになるのだ。
そういった人間たちが、普通にいた時代。娯楽などなく、貧乏だが、そこには戦争に負けたという敗残者的発想もあり、それでも、生きていけるだけで倖せという、慎ましい価値観がある。
間違いなく、全員が戦争を引き摺っている。だからこそ、淡い希望だけを持ち、ささやかな倖せが、どれほど嬉しいことかを知っている。
中盤、本作は主人公が子連れで小屋番の男と浅草寺にお参りに行き、六区で映画を見るという展開になる。子供は、縁日でお菓子を買ってもらい、男に忘れている父親の影を重ね、そして主人公も浅草で映画が見られるということだけで、乙女のように素直に喜ぶ。そんな小さなことで俄か家族のような心持ちになる。
見ていて胸が詰まった。全員が戦争に翻弄され、まだまだ生々しい記憶として実感している。そういった時代の市井の人間たちの機微。主人公は自分より男が一歳年下であることが気に懸かり、そんな相手に心が動く自分が、生きているとも死んだとも解らない亭主に対して申し訳ないと感じている。
今の若い人 たちには理解不可能かもしれない。それでも、生き残った人間たちが、小さな明日を夢見る。
ビデオもDVDもでていない小品だが、清貧ということが当り前のような時代の中で、必死に生きようとする人間たちに、万感迫るものがあリ、しばらくは呆然と身動きできなかった。


