彼奴(きやつ)を逃すな   昭和31年(1956年)

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スタッフ
監督:鈴木英夫
製作:宇佐美仁
脚本:村田武雄
撮影:三浦光雄
音楽:芥川也寸志

キャスト
藤崎哲夫 / 木村功
〃 君子 / 津島恵子
永沢主任刑事 / 志村喬
白石刑事 / 土屋嘉男
岡本捜査課長 / 澤村宗之助
山田 / 宮口精二
松永 / 佐田豊
〃 栄子 / 東郷晴子
畳屋 / 沢村いき雄
原島刑事 / 瀬良明

製作国: 日本 東宝
配給: 東宝


あらすじとコメント

コアなファンがいる鈴木英夫監督。独特のタッチで興味深い作品を輩出してきた。本作もその系譜に入る一本。市井の若夫婦が巻き込まれる身の毛もよだつスリラー佳作。

東京、中西部

高架のすぐ下の借店でラジオ修理をしながら職探しをする藤崎(木村功)と生計を助けるために洋裁をする妊娠中の妻君子(津島恵子)。貧乏ながらも前向きな二人だ。

ある晩、映画チケットを貰ったからと君子を先に行かせ、閉店準備にかかる藤崎。ところが運悪く隣家の知人が至急ラジオを修理してほしいと飛び込んできた。どうしても19時半からのボクシング中継を聴きたいと。見ると何とか時間までに間に合いそうだと引き受けた。19時10分に高架を通過する貨物列車の振動に邪魔されて、外を覗くと見知らぬ男がちらりと見えた。気を取り直し、何とか修理を終えてギリギリ放送時間には間に合った。

翌日、部屋から店に行くと警察が眼前の不動産屋で捜査をしていた。夕べ、ここの店主が拳銃で殺害されたというのだ・・・

事件を目撃した若夫婦が巻き込まれる恐怖を描くスリラーの佳作。

失業中でラジオの修理で何とか稼ぐ夫と洋裁で家計を助ける健気な妻。

夫が偶然犯行現場から逃げる犯人を目撃。妻にはそのことを告げるが、知らぬ振りをしないと警察にあれやこれやと詮索され、近所にも迷惑が掛かると。

しかも、翌日匿名の封書で『余計なことは喋るな、さもなくば・・・』との脅迫状を受け取る。

警察側は若夫婦を目撃者と推理するが、あくまでも協力者として相手側からの進言しか望めぬ。

一応、なだめたりハッタリを仕掛けたりするが、警察は四六時中自分らを守ってくれるはずがないと恐怖心が先行する妻の強硬な反対で板挟みになる夫。

更に若夫婦の知人が同一犯に殺害されるにいたって夫の恐怖心は極限になっていく。

しかも行き詰った警察側も若夫婦を『エサ』に真犯人を本人らには黙っておびき出そうとするから新たなサスペンスが加算されてくる。

制作は戦後11年経過した時期で、まだ市井の人間生活は貧乏が大勢であり、TVもなく家庭内娯楽はラジオだけだし、隣接する高架を通過する貨物列車も蒸気機関車と流石に時代性を感じさせるが、だからこその危険さと恐怖さがある。

要は不便さによる犯罪の隠蔽性と暗がりの不安定さがこちらの恐怖心を駆り立てる。更に警察も黙って市民を囮捜査に利用するという、流石当時の権力行使とも感じる。当然、それが更なる恐怖を生んでいくのだが。

中盤までは真犯人が登場せず若夫婦の葛藤が描かれて、何とも中途半端な夫婦の波風ドラマの態で進行するので間延びする。

ところが三分の二を過ぎたあたりから、急転直下、見事なるサスペンス・スリラーの態を成していく。

その描き方の見事さには舌を巻いた。重要なのは冒頭のタイトルで映る貨物列車の轟音と卓上時計。

さり気なく描かれてきた描写が一挙に繋がり、鳥肌が立った。

一瞬にして誰が真犯人かをこちらに理解させ、夫に命の危機が訪れ、そこに何も知らぬ妻が登場してくる。

ある意味、イギリス絶頂期のヒッチコックに匹敵する見事な演出で唸った。さり気ないショットの中にハッとするカットを挿入したり、時折視線の演技だけですべてを伝えるショットなど、緊張感から固唾を飲んだ。

いかにも都会派の「東宝」らしいスマートでクールな作風。時代性こそあれ、映像表現とクセのある俳優たちの妙技に酔える作品。

特に同じ制作会社だからでもあるが出演陣も黒澤明の「七人の侍」(1954)に出た志村喬、木村功、津島恵子、宮口精二、土屋嘉男が違う役回りで登場しているのも嬉しくなった。

映画が映画であった時代。粗製乱造で玉石混合と言いながら駄作ばかり多かったのも事実。

そんな中でも、本作のような作品に出合うとアドレナリンがあふれ出すから映画ファンは止められないと感じさせる佳作。

余談雑談+ 2023年11月11日
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